日程 | 2014/03/09(日) |
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会場 |
大阪大学 中之島センター 404講義室 〒530-0005 大阪市北区中之島4-3-53 TEL 06-6444-2100 FAX 06-6444-2338 |
当初予定していた2014年 2月8日(土)が降雪のために急遽開催を延期し、代替日として翌月3月9日(日)に再設定し、従来会場であったウェールズ大学大阪校から大阪大学中之島センターへ変更して開催しました。関西在住の学会会員を中心に多数ご参加いただきました。関西支部会は単なる講演会や交流会ではなく、各自が研究準備したうえで参加する研究発表会としました。「全員が主役」(秋沢副会長談)が関西支部のコンセプトであり、今回はその具現化でした。秋沢先生、麻殖生先生にもご参加いただき、参加者の満足度も高く盛況のうちに終了しました。
13:30 | 受付開始 |
14:00~17:00 | 研究発表会 |
17:15~18:15 | 支部総会 |
18:30~ | 懇親会 |
実施内容:
1.研究発表会・・・14:00~17:00(ファシリテーター:日本交渉学会 副会長 秋沢伸哉)
[発表1]
タイトル:非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者において食事運動療法の動機づけを高める交渉戦略
発表者:角田圭雄
所属:日本交渉学会員
京都府立医科大学大学院 医学研究科 消化器内科学
発表要旨:
北半球の先進諸国では肥満、糖尿病などの生活習慣病の増加に伴い、メタボリック症候群の肝臓での表現型である非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)が注目されている。NAFLDの約20%は肝硬変や肝癌へ進行するリスクを有する非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis: NASH)が存在し、国内に約200万人の患者が存在すると推計されている。NAFLD/NASHの治療の基本は食事運動療法などの生活習慣改善であるが、しばしば治療困難な例に遭遇する。そこでこのようなNAFLD/NASH患者に対してどのような交渉戦略が生活習慣改善の動機づけとなるかが課題である。
一方、南半球の発展途上国では飢餓人口が10億人に達している。国際連合世界食糧計画 (United Nations World Food Programme:WFP)は、食糧欠乏国への食糧援助と天災などの被災国に対して緊急援助を施し、経済・社会の開発を促進する国際連合の機関である。そこで、NAFLD患者に食事運動療法を行い、ALT値の低下度に応じて研究費からWFPの学校給食プログラムへ寄付を行うという社会貢献をインセンティブとした動機づけを利用した交渉戦略が有用か否かを検討した。
【方法】ALT 31 IU/L以上を示すNAFLD 25例を対象とし、無作為に次の二群に分けた。対照群:通常の食事運動療法群、寄付群:通常の食事運動療に加えて、12週間のALT低下値を算出し、ALT低下値に応じて研究費から寄付を行う群とした。エントリー時にALT 1 IU/L低下について1ドルをWFPの学校給食プログラムへ寄付することを患者へ説明し、同意を得た。結果は中央値 [範囲] で示した。
【成績】対照群13例、寄付群12例のうち、drop outした寄付群の1例を除く24例を解析対象とした。ALT値は対照群では治療前78 [36-140] IU/Lから12週後79 [34-169] IU/Lへと変化なく(p=0.780)、寄付群では治療前92 [51-164] IU/Lから12週後60 [42-119] IU/Lへと有意に低下した (p=0.013)。体重は対照群が70.6 [47.0-143.0] から68.5 [45.0-149.0] (p=0.944)、寄付群が70.9 [65.0-108.9] から67.0 [64.0-104.0] (p=0.161) と両群ともに有意差を認めなかった。WFPへの寄付金総額は316ドルとなり、約30人分の子供の1か月の給食費に充当できた。
【結論】NAFLD患者の食事運動療法においてALT値の改善度に応じた寄付という社会貢献インセンティブを動機づけにした交渉戦略 ‘Donations for Decreased ALT (D4D) projectはALT値の有意な低下が得られた上に世界の飢餓地域の子供たちに学校給食を提供し, 社会貢献を果たすことができた(Sumida Y et al. J Public Health, in press)。本療法の普及により北半球と南半球の食糧のインバランスを解消し、地球上から肥満と飢餓の同時撲滅を果たせる可能性がある。
[発表2]
タイトル:真の“Petty Management”を目指した配置異動実践時の交渉戦略
発表者:片山 ゆみ
所属:日本交渉学会員
発表要旨: 日本の看護師は,「病棟ごと」といった所属部署単位の契約で勤務する米国等の看護師とは異なり,看護部によって一括採用され,初任配属部署は退職者の人数が部署ごとの配置人数に合わせて振り分けられる.その後,数年のスパンで定期的な配置異動が行われることになるが,医師が専門領域を選択し,生涯固定されるのとはまったく異なる. 医療技術の進歩が著しく,患者の抱える疾患も複雑となり,何より医師および看護師の絶対数が不足しているなかで求められるのは,異動時に感情のコンフリクトを生じさせることなく,組織と個人にとってwin‐winとなる配置異動の実現である.今回,看護師が適応困難だと感じる配置異動のパターンを明らかにし,さらに5つの理論的・実践的インプリケーションを導くことができたので報告する.
[発表3]
タイトル:交渉における信頼の蓄積と交渉の連鎖-統合型交渉(原則立脚型交渉)の発展型の研究
発表者:東川 達三
所属:日本交渉学会員
新樹グローバル・アイピー特許業務法人、パートナー
発表要旨:
一度の交渉に執着する理論的交渉戦略が戦略論の主流である。
しかし、本研究により、ビジネスパーソンによる交渉において、一度の交渉による資源配分の多少よりも、長期的関係を重視し同じ相手と連鎖的に交渉を続けることによりパレート最適な配分を目指す行動が示唆された。 自分に利益をもたらせてくれる見込みのある交渉相手とは、単発の交渉結果にとらわれず、何度も交渉を繰り返し獲得する分配量の総量を重視するジビネス行動が明らかになった。このスタイルは、時系列の考えを持ち込んだ統合型交渉戦略の発展系と言える。信頼の蓄積をよりどころとした交渉を繰り返す戦略構築の可能性があり、今後更に研究の余地があると考える。
[発表4]
タイトル:OTC医薬品販売における顧客への交渉戦略-医療従事者に対する信頼とは-
発表者:早川 恵
所属:日本交渉学会員
発表要旨:
OTC医薬品の販売現場においては、従業員が顧客との販売交渉を行うにあたり、信頼の構築及び蓄積は必須である。当方は過去に製薬企業R&Dに所属していた経験があり、当時と比較するとB2BよりもB2Cの業態の方が、より信頼性の構築及び蓄積は必須であると考える。B2Bの場合、交渉当事者同士がある交渉で決裂したとしても、別の担当者がこれをリカバーできるのに対し、B2Cの場合は一度交渉が決裂すると、仮に交渉担当者の変更を行っても、顧客は店に足を運ばなくなると、リカバーが困難になる場合が多い。OTC医薬品の販売現場において顧客との販売交渉を行うためには、経験上信頼、感情、論理が必要だと考える。まずは信頼について検討する。
[発表5]
タイトル:「アライアンスにおけるヘルスチェック」
氏名:住田 能弘
所属:日本交渉学会員
発表要旨:
企業間提携すなわちアライアンスは、様々な交渉の後に契約が締結された後に、具体的なプロジェクトが実行されるようになる。しかしながら、残念なことに、種々のデータからアライアンスプロジェクトの多くが当初の目的を達成していないと言われている。
その中にあって、塩野義製薬社とパデューファーマ社の共同研究および共同販売に関する提携は、成功裏にプロジェクトを完遂し、当初目的を達成した事例である(参考文献[1])。本プロジェクトのアライアンスマネジャーとして現場体験をし、本文献の著者である山口栄一氏に直接インタビューし、この事例の背景およびプロジェクト構造、その成功要因、またその成功要因のひとつとなった、アライアンスの健全度を客観的に評価しプロジェクトを改善した「アライアンスのヘルスチェック」について報告する。
<支部総会>
出席者は、秋沢先生、麻殖生先生、相原会員、角田会員、小林会員、片山会員、早川会員、住田会員、水野会員、富永医師、東川 の11名でした。
<支部総会>
(1)研究発表会の講評
秋沢先生、麻殖生先生からはよい講評を頂だいた。
(2)会員各位の研究活動についての意見交換
全国大会発表に向けたテーマについて意見交換を行った。
(3)関西支部の組織運営について
従来通りの方針で今後も組織運営を行うことを確認した。
(4)関西支部の2014年度の開催企画について
秋頃に関西支部メンバーが集まる会合を開催することを決定。その際に、研究発表が可能な人があれば発表をしていただき、今後の研究テーマについて意見交換も行う。
(意見交換形式)
① 帰納法型デイスカッション
身近にあった交渉に関連する出来事や関連する先行研究に基づいて自説を展開していただき、参加者相互でデイスカッションする。
② 演繹型デイスカッション
先行文献を題材に、出席者各位の交渉学研究や交渉経験について語っていただき、参加者相互でデイスカッションする。
<懇親会>
大阪大学中之島センターから梅田へ移動し20:30過ぎまで楽しく会食しました。秋沢先生、麻殖生先生にもご参加いただきました。昼間の支部会に加えてさらに懇親が深まり、今後の学会活動へのモチベーションも上がりました。その後、秋沢先生と相原会員は最終新幹線にて東京へ帰られました。遠路よりご参加いただきましてありがとうございました。
(関西支部事務局:東川達三)